[電源設備ダウン]廃炉まで40年。設備更新は大丈夫か?

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事故原発の重要設備に電気を送る主要電路のうちの1系統がダウン。今後40年かかるともされる廃炉に向けて、設備の保守や更新に死角はないか?

原因はチガヤ対策のピンによる火災と断定

発生場所の状況②
発生場所の状況②

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東京電力は「福島第一原子力発電所の状況について(日報)」と、報道配布資料「福島第一原子力発電所電源設備の地絡警報およびエフレックス管からの白煙発生について」で発表した。

「日報」の発表では、

(前略)当該ケーブルに地絡が発生したことが原因で、ケーブルと接続している電源盤に地絡警報が発生したと判断。

火災発生時刻に、白煙が確認された箇所付近で防草シートの敷設作業を行っていたことから、現在当該作業との関連を調査中。(後略)

福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成27年7月28日

と、調査中だったが、報道配布資料では、チガヤ(雑草)対策の防草シートをピンで固定する際に、フレキシブルチューブ(エフレックス管)をピンが貫通し、そのせいで地絡(電路から大地への電流の漏れ)が生じたのが原因と断定した。

 福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成27年7月28日
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 福島第一原子力発電所電源設備の地絡警報およびエフレックス管からの白煙発生について|東京電力 平成27年7月28日
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発生場所の状況①
発生場所の状況①

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発生場所の状況③(ピン)
発生場所の状況③(ピン)

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発生場所の状況④(ピン) 写真は4点とも《「福島第一原子力発電所電源設備の地絡警報およびエフレックス管からの白煙発生について」撮影日:2015年7月28日 撮影:東京電力株式会社》による
発生場所の状況④(ピン) 写真は4点とも《「福島第一原子力発電所電源設備の地絡警報およびエフレックス管からの白煙発生について」撮影日:2015年7月28日 撮影:東京電力株式会社》による

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チガヤ! 覚えていらっしゃるだろうか。事故から約11カ月後の2012年2月、汚染水処理水を流す管路での水漏れが22件も連発した際の原因として「断定」されたのが、イネ科の植物チガヤ。ゴルフ場のラフなどにも生えているたいへんシブトい雑草で、鋭く尖った芽はシートやパイプをも貫くと説明された。

東京電力では、チガヤ対策として防草シートの設置を進めてきたが、その工事の過程で作業員がピンでフレキシブルチューブを貫いたという話である。

なんともお粗末な話ではないか。チューブに穴をあけてしまう雑草対策で、作業員がチューブに穴をあけてしまう。しかも原発にとって重要な電源をダウンさせてしまったというのだ。写真をよく見ると、防草シートは管路に被せるように掛けられていたようだ(非常に分かりにくいが)。それを固定するためのピンで、管路にブスッとやってしまうとは。(それにしても、6900ボルトの高圧な電流が流れている電線にブスッとやった作業員は無事だったのだろうか……)しかも今回の事故が発生した場所の他にも、貫通箇所が「数カ所」あることが確認されているという。

いったい、どんな工事が行われていたのか、疑問しか浮かんでこない。

しかし、本当の問題はそこにはない。「お粗末な事故」ということで片付けることが出来るほど、今回の事故は単純な問題ではない。以下、ぽたるページ「今日の東電プレスリリース」の記事から引用する。

 【ぽたるページ】2015年7月28日 今日の東電プレスリリース
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重要な電源装置に事故(警報発生)が連続

※7月28日午前8時25分頃、6,900V電源盤(M/C2B)の地絡警報が発生したことを確認。また、5号機中央制御室において、6,900V電源盤(M/C5F)の地絡警報が発生したことを確認。状況を確認したところ、運転中であった窒素ガス分離装置(B)の停止および陸側遮水壁用のすべての冷凍機の停止を確認。窒素ガス分離装置については、A系が運転しており、窒素供給には問題がない。
現場の状況を確認した結果、以下の設備に異常がないことを確認。
・1~3号機原子炉注水設備
・1~3号機燃料プール冷却設備
・共用プール冷却設備
・モニタリングポスト
・構内ダスト放射線モニタ

福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成27年7月28日

メタルクラッド2Bは、原発内の重要施設に電気を送る極めて重要な配電盤

「M/C」とはメタルクラッドという電源設備の略称。福島第一原子力発電所1~4号機では、炉心や使用済み燃料プールの冷却、汚染水処理などさまざまな設備で使用する電力を、冨岡町にある新福島変電所から6万6000キロボルトの送電線2系統で発電所構内に送っている。それぞれの系統で受電し、構内用に6900キロボルトに電圧を下げたものをメタルクラッドで受けた上で、それぞれの施設に配電している。

今回、地絡(電路から大地に電流が流れること。漏電と同じく危険な現象)が発生したメタルクラッド2Bは同2Aとともに、1~4号機に関連する多くの設備・施設に電気を送る極めて重要な配電盤だった。

経済産業省の資料によると、メタルクラッド2Bは、その下流側に接続されたメタルクラッドを通して、原子炉注水ポンプ、1号機~4号機の使用済燃料プール冷却系、タービン建屋滞留水移送装置、多核種除去設備、共用プール冷却系、原子炉格納容器ガス管理設備、さらに窒素ガス分離装置B(今回停止)、凍土遮水壁設備(今回停止)、計測用電源、建屋内照明、そして免震重要棟に電気を送る配電設備だった。

事故原発でニュースとして報道される施設・設備のほとんどが網羅されていることがわかる。これらすべての施設・設備がストップしなかったのは、メタルクラッド2A系によるバックアップがあっからにほかならない。もしも2A系にも同時に事故が発生していたら、非常用ディーゼル発電機や電源車による送電を行わなければならない事態に陥っていた恐れがある。

メタルクラッド5Fについては、手元の資料でどのような設備に配電していたのかは不明だが、配電図によると2Bと接続するメタルクラッドで、6号機のディーゼル発電機に繋がっている。配電図で端と端に位置する両メタルクラッドで事故が発生したということは、その間に繋がっている他の配電盤や設備等に影響が無かったか懸念される。

◆地絡の原因はケーブルが収められたフレキシチューブの火災で確定か?

また、午前8時34分頃、多核種除去設備(ALPS)建屋西側において、電源ケーブルが収納されているフレキシブルチューブより白い煙があがっていることを発見したとの連絡が協力企業作業員よりあったことから、午前8時40分に双葉消防本部へ連絡。
その後、白煙の発生が止まっていることを、午前8時42分に確認。

多核種除去設備建屋近傍における白煙の確認については、双葉消防本部による現場確認の結果、フレキシブルチューブの火災であると判断。午前9時30分、同消防本部により、鎮火を確認。白煙が確認されたフレキシブルチューブには、6,900V電源盤(M/C2B)の負荷ケーブルが収納されていたことから、当該ケーブルに地絡が発生したことが原因で、ケーブルと接続している電源盤に地絡警報が発生したと判断。

火災発生時刻に、白煙が確認された箇所付近で防草シートの敷設作業を行っていたことから、現在当該作業との関連を調査中。なお、電源盤の地絡警報については、現在すべてクリアしており、本件について、けが人は発生していない。また、停止した窒素ガス分離装置(B)については、異常がないことを確認したことから、午後0時16分に起動し、午後0時34分に窒素ガスの供給を開始。陸側遮水壁用の冷凍機については、午後2時5分にシステムの運転を開始。

福島第一原子力発電所の状況について(日報)|東京電力 平成27年7月28日

大きな事故につながらなかったことは幸いだが、メインの電路の2つのうち1つが止まる事態は重大だ。しかも、2Bと接続する5Fでも地絡が発生していたとなると、他の場所での地絡やトラブルの影響でフレキシチューブ内のケーブルが加熱・発火した可能性も否定出来ない。徹底した原因究明が求められる。

仮設の電路のまま廃炉までの40年を運用するのか>

「ぽたるページ」では徹底した原因究明が不可欠という結論で〆たが、さらに大きな問題がある。それは、このような施設での運用がいつまで可能なのかということだ。

東京電力が更新したロードマップでは、廃炉までに要する期間は30~40年とされ、事故から4年以上経ってもぜんぜん縮まっていない。40年以上の時間を要する恐れも十分に配慮しなければならない。

その長期間を、主要な電源施設を仮設のまま乗り切る考えなのだろうか。

保守管理を目的とした除草シートの敷設作業で、電源をダウンさせてしまうような状態では、次にどんなシビアな事態が発生するか予想することもできない。何があっても不思議ではない状況だ。

4年4カ月前の事故は地震による津波と、過酷事故対策の欠如が主要な原因だったが、これからは「シートの上から電源ケーブルにピンをブスッと刺しちゃいました」といった、あまりにお粗末なミスによってシビアアクシデントが発生する恐れがある。福島第一原発は人類の大ピンチを防ぐ最前線であることを重く考えて、ぜひとも作業体制の抜本的な改善を行ってほしい。「安心は人の気持」の問題と言い放った政治家(しかも被災地担当)がいるが、そんな戯言から悪い影響をもらってはならない。現場で作業する東京電力や協力会社の皆さんは、ぜひとも技術者としての責任感をもって「安全」を担保していただきたい。

事故を起こした建屋内の設備の更新は?

事故原発の敷地内を縦横斜めに走る配管や排水管、電路などのメンテナンスやパーマネントな施設への更新も大変な問題だが、福島第一原発はもうひとつ大きな問題を抱えている。それは、事故原発の廃炉・解体が完了するまで40年もの時間がかかるということは、それすなわち「原発が建設された時から数えると80年もの」時間が経過していることになるということだ。

電源設備や配管が健全に働いてもらう必要のある期間は、若干は短いかもしれない。それでも、高い線量で脆化が進んでいることも考えられる建屋内部の設備のメンテナンスや更新は絶対に不可欠だろう。

線量が高く、ロボットすら自在に行動できないような場所での設備更新が困難を極めることは明らかだ。しかし、それでも安全な廃炉・解体に向けては、既存施設を利用・応用するためのメンテナンスや、新たな設備の増設が欠かせない。

汚染水問題やデブリの場所すら分からないといった話で、今のところは目いっぱいの状況だが、現在はまだ廃炉のための準備段階でしかない。今後やがて、おそらく東京オリンピックと前後する時期以降、事故原発の処理はいまよりさらにシビアな状況になっている恐れがある。

そこで今回のこの事故だ。作業員がやっちゃいましたでは済まされない重大局面だ。東京電力や関連企業の方々にしっかりやってもらうのはもちろん、廃炉に向けての綱渡りが、これから40年ものにわたり続いていくことを理解しておく必要がある。

【まとめ】今日の東電プレスリリース「ここがポイント」
 【まとめ】今日の東電プレスリリース「ここがポイント」
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