山登りのススメ Vol.17 ~悪沢岳~

sKenji

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丸山から悪沢岳を望む(※右側のピークが悪沢岳)
丸山から悪沢岳を望む(※右側のピークが悪沢岳)

南アルプスの奥深くに位置する日本百名山のひとつ「悪沢岳」。正式名称は「荒川東岳(東岳)」であるが、日本百名山の著者・深田久弥が「悪沢岳」の名称を推奨しているせいか、登山者の間では悪沢岳と呼ぶ人も多い。

日本第六位の高峰で標高は3,141mあり、前岳、中岳とともに荒川三山と呼ばれている。

8年越しの悪沢岳登山

悪沢岳は以前から登りたいと思っていた山である。

8年前、北岳から光岳まで南アルプスを縦走したことがあった。その時、縦走路から少し外れた場所にあった悪沢岳へは時間の関係で登ることができなかった。途中にある中岳まで行き、そこから悪沢岳の山容を見ながら、いつか必ず登ろうと思っていた。

あれから8年。ほぼ毎年のように登ることを考えていたものの、登るのに最低でも3日間必要なことや天候など理由で、なかなか登るチャンスが巡ってこなかった山である。しかし先週の3連休、8年越しの願いをかなえるために悪沢岳に登って来た。

悪沢岳登山は、一般的に「椹島(さわらじま)登山口」からスタートして「赤石岳」、「悪沢岳」などを登って、再び「椹島」に戻ってくる周回ルートで登る人が多い。しかし、私は二軒小屋のキャンプ場に2泊して、3連休の中日に二軒小屋の登山口から悪沢岳のみ日帰りで登ることにする。

二軒小屋へ

三連休の初日。朝6時過ぎに静岡県の畑薙第一ダム近くに設置されている沼平ゲートに到着すると、2、3時間ほど車で仮眠をとって、登山口がある二軒小屋へ向けて出発した。

二軒小屋へは、沼平ゲートから林道を歩いて行く。

林道は自動車が1台通れるほどの未舗装道路で、山間を流れる川沿いに造られている。
ちなみに、沼平ゲートから先の林道は一般車両の通行が禁止されている。林道途中にある椹島ロッジや二軒小屋の宿泊者は、通行を許可された小屋の送迎バスを利用することができるが、キャンパーは徒歩か自転車で行く必要がある。

沼平ゲートから二軒小屋までの歩きは、考えていた以上に疲労が大きかった。7時間半かけて、やっと二軒小屋に着く。到着後、どれくらいの距離だったのだろうかと思って調べてみると約27kmあった。これは、東京・新宿駅から立川駅までの距離に匹敵する。地元の三島の例でいうと伊豆箱根鉄道の三島駅から修善寺駅までが約20㎞だから、同区間の約1.5倍弱の距離になる。ちなみに背負っていたザックの重さは20~25kgほどある。登山地図に、歩行時間8時間と書かれていたので「歩いてみようか」と楽観的に考えて歩いてみたものの、想像以上の疲労度で復路のことを考えるとげんなりとした。

二軒小屋へのアクセスは大変であったものの、同小屋のキャンプ場のロケーションは素晴らしかった。キャンプ場は渓流沿いの林間に造られており、ふかふかの草地のフリーサイトであった。見た瞬間に一発で気に入ったキャンプ場であった。

二軒小屋のキャンプ場。写真に写っている小屋は二軒小屋ロッジ
二軒小屋のキャンプ場。写真に写っている小屋は二軒小屋ロッジ
ふかふかの草地のフリーサイト。快適である
ふかふかの草地のフリーサイト。快適である

悪沢岳を登る

翌日、悪沢岳山頂へアタックする。二軒小屋のキャンプ場に2連泊するので、張りっぱなしのテントに荷物のほとんどを残しておき、最低限の装備と食料だけ持って出発した。

登山口は大井川源流域に架かる吊り橋を渡って始まる。

出発時間は5時半。あたりは明るくなっていたものの、深い谷間のために太陽を目にすることはできなかった。薄暗い森の中を登っていると、サァーっと朝日が差し込んできた。森が一気に輝きだした。

登山口近くにある滝
登山口近くにある滝
大井川源流域に架かる吊り橋
大井川源流域に架かる吊り橋
朝日が差し込み森が輝きだした
朝日が差し込み森が輝きだした

登山口から悪沢岳への途中には「千枚岳」と「丸山」という2つのピークがある。千枚岳山頂直下までは、途中、展望が広がる箇所が数か所あるものの、基本的には樹林帯の中を歩く。

樹林帯は千枚岳山頂近くで終わった。そこからは、樹高が人の腰丈から頭ほどの五葉松の一種である、ハイマツが生い茂る地帯へと変わった。高い樹木が生育することができる限界のラインを「森林限界線」といい、このラインより上には、さながら天上の楽園のような世界が広がっている。

樹林帯の中でも、数か所眺めがよい場所もある
樹林帯の中でも、数か所眺めがよい場所もある
樹林帯を抜けると、ハイマツ帯が広がっている。写真に写っているピークは千枚岳
樹林帯を抜けると、ハイマツ帯が広がっている。写真に写っているピークは千枚岳
ハイマツ帯から下を望む
ハイマツ帯から下を望む

森林限界線より上ではハイマツが生い茂っていることが多い。ハイマツは、日本アルプスのアイドル・ライチョウを始め、高山に生きる動物にとってはすみかでもあり、食料でもある大切な樹木である。

この日、10羽近くのホシガラスがあちこちでハイマツの実をついばんでいた。
ホシガラスは、ハイマツの実を枝からもぎとって口ばしにくわえると、まず近くの開けた場所や岩の上まで運ぶ。そして、実の中にある数十個の種子をいったん飲み込むと、貯蔵する穴がある場所に移動して種を埋めて小石などを置く。

ハイマツからしてみると、一見、実を取ってしまうやっかいな存在に思えるかもしれないが、ホシガラスが貯蔵したもののうち、食べ残した種子から新たな芽がでてハイマツの生育地が広がるというメリットがあるのだという。
絶妙な関係が成り立っている自然界の面白さを感じる。

ホシガラス
ホシガラス
ホシガラスが登山道に食べ散らかしたハイマツの実
ホシガラスが登山道に食べ散らかしたハイマツの実
ホシガラスがついばんだハイマツの実
ホシガラスがついばんだハイマツの実

千枚岳からは展望のよい山の稜線を歩いて悪沢岳山頂を目指す。途中、大きなカールを見ることできる。カールとは氷河によって削り取られてできた地形のことで、登山者だけが見ることを許される自然が作り出した壮麗な地形である。

氷河によって削り取られた地形、カール
氷河によって削り取られた地形、カール
カール。山腹をスプーンですくったようなU字型の地形
カール。山腹をスプーンですくったようなU字型の地形
千枚岳から悪沢岳を望む。写真右から丸山、悪沢岳である
千枚岳から悪沢岳を望む。写真右から丸山、悪沢岳である

そして10:30。ついに悪沢岳登頂。その瞬間に感じた喜びは大きいものがあった。ここ2、3年、山頂に立ってこれほど達成感と嬉しさを感じた記憶はなかった。登山に達成感がないというのではなく、山の頂上よりもむしろ無事に下山した時の方が「達成感」、「安堵感」、「満足感」などの感情が込み上げてきていた。しかし、悪沢岳は8年越しの想いがかなったということで、登頂したときの喜びは大きかったのだ。山頂からの眺めは格別で、8年前に悪沢岳に登ることをあきらめた場所である、中岳も見えた。

悪沢岳山頂
悪沢岳山頂
悪沢岳山頂から撮影。右奥に移っているのが中岳
悪沢岳山頂から撮影。右奥に移っているのが中岳
山頂から撮影。昼ごはんを食べ終わったあたりから、ガスが濃くなってきた
山頂から撮影。昼ごはんを食べ終わったあたりから、ガスが濃くなってきた

昼食を取って1時間ほど山頂を満喫すると、来た道を戻って下山することにした。

悪沢岳山頂周辺は高山植物が多い場所である。しかし、9月中旬ということで高山植物に対してはあまり期待を抱いていなかったのだが、所々で高山植物が咲いており、のんびりと写真を撮りながら歩いた。

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