政治的配慮から自治体がイベントを断る「危険」な時代

iRyota25

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検閲、弾圧、いやな単語がちらつく状況

「“政治的中立への配慮”が相次ぐ」とNHKのニュースウェブが伝えた見出しだけでは何のことやら分かりにくいが、自治体へのアンケートで構成されたこの記事はスマッシュヒットだった。

4月21日のニュースの冒頭は以下のとおり。

憲法や原発など国民の間で議論が分かれているテーマを取り上げた講演会や展示会などについて、各地の自治体が「政治的中立を保つ」として内容の変更を求めたり、後援の申請を断ったりするケースが相次いでいることがNHKの取材で分かりました。

“政治的中立への配慮”が相次ぐ NHKニュース 2014年4月21日

もう少しはっきり言うと、政治的中立を守るためという政治的配慮によって、自由な発言や展示の場が制約を受ける事態が相次いでいるということ。

中垣克久さんの「時代の肖像」中日新聞の記事よりリンク

中垣克久さんの「時代の肖像」中日新聞の記事よりリンク

www.chunichi.co.jp

この調査報道の念頭にあるのは、2月に東京都美術館で起きた「事件」だろう。

「現代日本彫刻作家展」に出品した造形作家の中垣克久さんの「時代の肖像――絶滅危惧種」について、都美館の小室明子副館長が、政治性を理由に作品の変更または撤去を求めたという出来事。

しかもその舞台となったのが美術館だというから目も当てられない。美術館は美的センスや美意識、哲学、思想など、人間の内面をさまざまな形で表現した作品を展覧することで、人類の思想や表現の多様性を感じて・知って・考えてもらう(できればさらに何か行動に移してもらうきっかけを提供する)施設だ。そんな場所で「メッセージの撤去か作品そのものの撤去か」と強要するなど、いくら館としてのコレクションを持たない貸ギャラリー的存在の都美館とはいえ、信じがたい事件だった。

中垣克久さんの作品には、政治の右傾化に反対するメッセージが記されていたという。中垣さんは、会場を使用できなくなることを恐れ、自らの作品の一部であるメッセージの紙を撤去したという。

騒ぎになった後に掲載された写真を見ると、作品には「日本は今、病気である」「日本病気中」といったメッセージが貼られているのが認められる。弾圧によってメッセージを撤去せざるを得なかったことを逆手にとって、時代の「病」を糾弾するこの作品。作家にとっては不本意だろうし、実に皮肉な話だが、この事件を経ることで歴史的意義が追加されたという評価もあった。

少しずつの変化だから見過ごしてしまいがち

NHKが4月21日に配信したニュースは次のように伝えている。

講演会や展示会などについて「政治的中立を保つ」として、施設の貸し出しを断った自治体が1つで合わせて2件、内容の変更を求めた自治体が5つで合わせて6件、後援の申請を断った自治体が14で合わせて22件となりました。

“政治的中立への配慮”が相次ぐ NHKニュース 2014年4月21日

これらをテーマ別に見ますと、憲法に関するものが11件、原発に関するものが7件と全体の6割を占め、そのほかTPPや介護、税と社会保障などとなっています。
また最も件数が多かったのは、後援の申請を断ったケースですが、その多くは「名義後援」と呼ばれ、催し物のチラシに自治体名を入れたりチラシを公共施設に置いたりすることを認めるものです。
かつて後援していた憲法や原発に関する催し物について昨年度は後援を認めなかったケースも、3つの自治体で1件ずつありました。

“政治的中立への配慮”が相次ぐ NHKニュース 2014年4月21日

内容の変更を求めるとか、場の提供を拒むことは、明らかに検閲であり、弾圧だ。内容次第でかつて後援していたものを取りやめるというのも、陰刻された検閲と言える。

しかもそんな扱いが札幌市、宮城県、長野県、茨城県、千葉市、東京都、足立区、静岡県、福井県、福井市、堺市、京都府、京都市、神戸市、大津市、岡山県、鳥取市、福岡市と、ずいぶん身近なところで行われているというのだ。

一方、複数の抗議電話を受けながら、施設を貸し出しとともに後援も認めた自治体もあったという。長野市教育委員会はニュースの中で「公の施設の利用は正当な理由がない限り拒んではならないと定められている」と指摘している。この時、施設の貸し出しを申請したのは、憲法に関する集会を企画した市民団体だったという。

専門家「どの意見も認め議論活性化を」

地方行政に詳しい千葉大学の新藤宗幸名誉教授は「特に国論を二分するテーマを取り上げた講演会やイベントについて拒否をする動きが各自治体で広がっていると感じる。自治体は、それぞれを認めて議論が活発になるように働きかけるのが本来の姿だ」と指摘しています。

“政治的中立への配慮”が相次ぐ NHKニュース 2014年4月21日

行政は何を気にして検閲ととられても仕方がない行動をするのだろうか。まさかどこかの機関から通達が出ているわけではないだろう。上から命令されているわけではないのに、危なそうにに思えることに対して腰が引ける。自己規制する。担当者1人が勝手に自己規制するのならどうでもいい話だが、行政は権限を持っているから市民がまきぞいを喰らうことになる。そのうち世の中のムードというものがそっち一色に傾いていく。

原発に反対したところで電気を停められるわけでもないし、時の首相を批判したからといって逮捕されることはない(はずだ)。

しかし怖いのは、誰かが何かを言ったわけでも、命じたわけでもないのに、検閲社会が近づいて来ることではないか。変化は人のこころの中で少しずつ進んで行く。気づかないくらいゆっくりと。

検閲とか弾圧なんて言葉に「まさかそんなオーバーな!」なんて寝ぼけているうちに、世の中ががらっと変わってしまうかもしれない。いやすでに変わり始めているのだ。

NHKの報道は、その恐怖を掘り起こして、身近なものとして示してくれた。ぜひ記事が抹消される前にご一読を!

文●井上良太

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