東日本大震災・復興支援リポート「雪の石巻に咲いた真夏のひまわり」

iRyota25

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め組JAPAN「南浜ひまわりプロジェクト」写真展(2013年1月25日~1月27日)

添えられたコメントがぐっとくるのです。写真は会場で展示パネルを撮影させていただいたものです

「久しぶり!元気だった?」

「本当にお世話になったわね。いまどうしているの?」「あの時はありがとう」

石巻駅北口。雪が積もった道を足元に気を付けながら歩くこと5分ほど。め組JAPANの「南浜ひまわりプロジェクト」写真展会場となったナリサワギャラリーには、笑顔、涙、いくつもの人の輪、ハグしあう人たちの姿がありました。展示されたたくさんのひまわりに見守られながら。

め組JAPANが石巻市の海側の町、南浜にひまわりを植えたのは、「その場所を通るたびに、私たちは悲しくて仕方がなかったから」と、プロジェクトリーダーの桝谷和子さんが話してくれました。

「そこにはたくさんの家があって、たくさんの人たちが暮らしていた場所なのに、ただ津波の悲惨さだけを感じさせるような場所ではあってほしくなかったんです」

実は、桝谷さんたちは震災直後の2011年にも、ひまわりを植える活動を行っています。

「最初にひまわりを植えませんか、と呼びかけたのは5月です。まだがれきがたくさん残っていた時期で、石巻に入っていたボランティア団体も家屋の片づけや泥出しといった活動をしていた頃。ほかの団体は『えっ?』『どうしていまひまわりなの?』という反応でした」

しかし、桝谷さんたちはひまわりが持つ力に気づかされます。

「当時、私は在宅で生活をされている方のサポートを中心に活動していました。仮設住宅での孤独死が『なんとしても防がなければならない課題』として注目されていましたが、在宅の方へのサポートは非常に薄い状況でした。支援も情報も来ない在宅の方々には『見放された』『見捨てられた』という思いを持たれていた方も少なくありませんでした。そんな、大きな枠からこぼれていた方たちのフォローをする中で、配ったひまわりの成長を自慢するように話してくれる方がたくさんいらしたのです。『うちのひまわり、すごいだろう』『こんなに伸びたんだよ』って」

毎日水をやったり、世話したりする中で成長していく植物。芽が出て、茎が伸びて、葉が広がり、そしてやがて花を咲かせる。花の成長が人に力をくれるのです。そんなひまわりの力を知ったことが、2012年の「南浜ひまわりプロジェクト」に結びついたのです。

すぐ終了するプロジェクトのつもりが

「最初は、5月のゴールデンウィーク期間中に、ひまわりの種を植えて終了するはずのプロジェクトでした。約60軒ほどの自宅跡地の一部を耕して種を植えて、ぱっと終了する予定が、そうはいかなくりました。まずテーマとなったのは、自宅跡地をどこまで片づけるかということです」

許可をもらえた住宅跡地を軽く片づけて、ひまわりを植えるだけなら、作業はどんどん進んだでしょう。しかし、ひまわりを植える場所は、かつて人々がそこで暮らしていた場所。自宅跡地を見に来た人がどう思うか。そのことを考えると、軽く片づけるという選択肢はありませんでした。けっきょくガッツリ片づけることで大幅に時間がかかることになったといいます。

「ひまわりは強いから」と言われていましたが、実際に植えてみるとたやすいことではないことが判明しました。瓦礫撤去のために重機が走って踏み締め、さらに雨に降られて固まった土地を掘り起こして耕す。しかも土地は浸水と塩害とヘドロ。油混じりの土地もありました。

種を撒いても芽が出ない。いろいろ工夫しても育たない――。

「それじゃあ別の場所で種を芽吹かせて、苗に育ててから植えようという方針になったのですが、自分たちの力だけで苗を育てるのはとうてい無理。困り果てたあげくに、河北新報や石巻日日新聞など新聞で呼びかけてもらいました」

たくさんの人たちが苗づくりに協力してくれるようになりました。石巻の農家の方々からもポットをいただいたそうです。そして協力してくれる人たちが口にしたのは、

「ずっとお世話になって、お返ししたかったんだけど、これまでできなかったから」

「亡くなった娘がひまわりを好きだったから」「この土地で亡くした友人の弔いの気持ちで」

め組JAPANの活動を通して知り合った人たちの協力も大きかったと桝谷さんは言います。地元にいたら会えない人。影響力を持った人。たとえば園芸家の柳生真吾さんのような方がフラットな関係でつながって、Facebookなどで呼びかけてくれたのだそうです。

「困ったときに声に出したら、助けてくれる人がたくさんいた。そのことがうれしくて、ありがたかったんです」

南浜ひまわりプロジェクトは、たくさんの人々の思いがつながって、130軒にひまわりを植えて育てる大きなプロジェクトになっていました。

仲間たちがやってきたことって、本当にすごい

実は、現場での作業に先立って、自宅跡地にひまわりを植えるための許可を取る必要がありました。その際にも南浜の住民の方の大きな協力がありました。

「南浜に住んでいた人たちのほとんどが、仮設住宅やみなし仮設住宅でばらばらに生活していました。許可をとるにしても、どこにいけばいいのか、住んでいた人たちの居場所を探すことも大変だったのです」

探してくれたのは南浜に住んでいた人たちです。区長さんたちも協力していくれたそうです。

「許可していただいた後、あいさつに行ったときに『いいんだよ。どうせもう価値のない土地なんだから』と言われ、その表情にズキンときたこともありました」

自分たちが住んでいた土地への思い。多くの人々が亡くなった土地。土地だけは残っていてもそこにはもう住むこともできない場所。その場所で咲いたひまわりの写真展を開催することについては、いろいろな意見があったそうです。でも、ひまわりが咲いた南浜では、たくさんの「ありがとう」の声が聞かれました。そして、いまでも被害が大きかった土地に行くことができない人もたくさんいます。だから、開催に踏み切ったのだそうです。駅の近くの会場で開いたのも、交通手段が限られている人たちにも来てほしかったからだと言います。

「ひまわりの写真展に来ていただいた人たちの中には、いまでもつらいと思っている人がいます。地図を見て涙を流す人もいます。そして、笑顔でありがとうと言ってくれる人もいるのです」

南浜ひまわりプロジェクト写真展には、初日の1月25日から最終日1月27日までたくさんの人が訪れました。桝谷さんは来場した南浜の人たちからたくさんの言葉をもらいました。

「やっと前に進もうと思えた」

「一歩前に踏み出せる。ありがとう」「これまで被災地の写真展をいろいろ見てきたけれど、こんな穏やかな気持ちになれたのは初めて」

ひとつひとつが、桝谷さんにとって宝物のような言葉です。桝谷さんだけではありません。ひまわりプロジェクトに参加した多くのボランティアたちが、この写真展で再会しました。ボランティア同士、そしてボランティアと住民の方々。たくさんの言葉と、涙と、笑顔で会場がいっぱいでした。取材中にも「うちの場所に咲いたひまわりの写真をいただけないかしら」というやり取りが聞かれました。

「もちろんです!」「こちらこそありがとうございました!」

たくさんの笑顔、たくさんのハイタッチ、たくさんのハグ、そしてたくさんの「ありがとう」

最終日には会場に展示された写真が何枚も抜けていたほどです。写真がなくなったスペースのひとつひとつが、住民の人たちとめ組の人たちの絆を物語っているようでした。

「仲間たちがやってきたことって、本当にすごいんだと思う。『あー久しぶり』って言葉をどれくらい聞いたことか。プロジェクトのリーダーとして迷ったこともあったし、いろいろ間違いもあったと思う。でも、この展覧会をやって、やってきたこと、思っていたことが間違いではなかったと思えました。ひとりでは決してできないことがやれたのが、うれしいんです」

そして、桝谷さんはこう言いました。

「展覧会に来てくれた皆さんの笑顔はうれしいけれど、そこにはやはり大きな悲しみがあるんです。私はそれを忘れない。でも、悲しみがある中でその人が笑おうと思ったのなら、私たちは、それを応援しよう」

桝谷さんは引き続き石巻で活動する決心をしたそうです。今度は現場で動き回る立場ではなく、仲間をサポートする事務局的な役割を担って。

「自分はいままでたくさん支えてもらった。その人たちを支えたいんです」

地元の人たちとボランティアの間で数えきれないほと語られてきた「お世話になったから」の思い。ボランティア同士が支え合う気持ち。そんな思いが、大きな輪になっていくのを感じました。たくさんのひまわりの写真に囲まれて。

最終更新:

コメント(5

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  • A

    akaheru

    震災により、言葉では言い表せないようなつらい経験をされた方たちが、周りの方々のことを思いやり活動する姿は、心を打たれるとともに、何もできていない自分に腹が立ちます。お金や物資だけでなく、ひまわりプロジェクトのように支援にはさまざまな形があり、少しでもお役にたてることが絶対にあるはず!引き続き自分なりに考えていきたいです。

    • I

      iRyota25

      ひまわりの種をそれぞれの土地で植える活動も進んでいます。写真展には宮崎県の小学校での活動の様子が子どもたちからの絵とメッセージで紹介されていましたよ。
      石巻の象徴みたいになったひまわりですが、め組さんだけでなく、がんばろう!石巻のど根性ひまわりの種とか、いろいろあるようです。

    • P

      pamapama

      いつも写真がいいので楽しみにしているのですが、今回の写真に写っているみなさんの表情はまた特別いいですね!

    • H

      habihabi64

      向日葵は太陽に向かって伸びて、強くて元気でエネルギーがあるお花だと思います。失ってしまった大切な場所に咲いたヒマワリは黄色くキラキラ輝いて、天国へ逝かれた大切な人は、その黄色を目印に大切な場所と大切な人を見守っていたのだと思います。"「強い」って泣かないことじゃない泣いてもまた笑えること"素敵なメッセージをありがとうございました。

      • I

        iRyota25

        写真に添えられたコメントが、すごいんです。
        め組さんにお願いして、コメント集もアップさせてもらおうと思ってます。