明日を目指すお店リポート:久之浜「からすや食堂のラーメン&餃子」

iRyota25

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「こだわりってことではないんだけどね。同じ味。昔ながらの味でやってます」

被災地にできた仮設商店街の第一号となった久之浜の「浜風商店街」。いつも笑顔で話しかけてきてくれる、からすや食堂さんは商店街のウェルカム担当。気さくで美人の奥さんとイケメンなご主人が、味と会話で笑顔を届けてくれます。

最初に訪ねた時に食したのは、餃子と味噌ラーメン。大き目サイズなのに皮が薄くて、口の中に美味しさがジュワーっと広がる餃子に「やられた!」と感激した後、味噌ラーメンをいただくと、これまたびっくり。札幌ラーメン系のこってりした味わいとは程遠い、あっさりさわやかな味噌ラーメンでした。だからといって物足りないと感じさせないところが、からすや食堂さんのこだわりのはず。味の秘訣を尋ねたところ、返ってきたのが冒頭の言葉だったのです。

味噌ラーメン(500円)
味噌ラーメン(500円)

久之浜は漁業の町。カレイやヒラメ、カワハギ、タコ、メヒカリなどおいしい魚がたくさん獲れる場所でした。同じ浜風商店街の石井魚店さんが「久之浜の人は舌がこえている」というくらいですから、白身魚系の微妙な味わいを堪能する味覚の持ち主が多い土地柄なのでしょう。だから、みそラーメンといえども、あっさりしたスープの味わいが好まれてきた。そんな久之浜の味を守っているという意味だろうと、勝手に納得した次第。

絶品の餃子、300円。うまいのに安い!

味については「昔ながら」を守ろうとやっているからすや食堂さんですが、仮設商店街で営業するにあたって、以前とは変えなければならないことがありました。

「昔のメニューの半分しかないんですよ。仮設商店街に入るにあたって、以前のような冷蔵庫を入れることができなかった。在庫をストックできないからメニューを減らすしかなかった。いろんなお客さんに応えてメニューを揃えていたんだけどね」。美味しいから少数精鋭でもいいじゃないですか、と応えそうになった言葉をなんとか押し込んだ。からすや食堂のご主人は、メニューが減ったことがとても悔しそうなのです。

「でもね、仕事しているのとしてないのでは違う。仕事しないと。仕事だよね」

ご主人は、厨房で大根を切りながら何度も「仕事」という言葉を繰り返しました。

からすや食堂は久之浜の旧街道沿いにありました。地震と津波で「1階部分はやられたけれど、2階はなんとか無事だった。それが津波の後の火災で全焼。さらに原発のことがあって避難生活。いわきの南の方の湯本に行って、そこからさらに郡山。避難生活している間は考えることができなかった。これから仕事をどうしようとか、そんな状況じゃなかったんだ」。店はなくなった。原発の影響で町の人の多くが避難している。場所もお客さんもなくなった中で、未来を描くことは難しいかったに違いないでしょう。もしかしたら、仕事のことを考えないようにしていたのかもしれない、とまで思います。想像することしかできないが、もしも自分がその状況に置かれたら、きっとそうだっただろうと。

からすや食堂さんの気持ちに変化が現れたのは、震災から2カ月ほどたった4月の末か5月に入った頃。久之浜を離れて、いわきの平かどこか別の場所で店を出さないかと誘われたのがきっかけだったそうです。

「どうせやるなら地元の方がいい。正直そう思いました。でも地元っていっても人がいない。それを考えると不安だったけど、人が戻るのが先か、店が先かの問題だと考えたんです」

その頃には、久之浜の空間線量が比較的低いことがわかってきて、少しずつ地元に戻ってくる人が増え始めていたそうです。しかし、久之浜の中心部は津波と火災で破壊されてしまったので、お店がほとんどない。帰ってきてもお店がなければ困ってしまうから帰れない。でも、久之浜にお店があれば、戻ってこようという気になるのではないかと考えたのだというのです。

そう考えて悩んでいた時に町の商工会から仮設商店街の話が持ちかけられました。

「久之浜に店を出そう。久之浜で仕事をしよう」

写真が下手ですみません。本当はお二人とももっと素敵なんですよ

人が戻ってくる前にお店を開こうというのですから、もちろん採算は度外視です。すごいことだと思います。仮設商店街への出店が本決まりになってからも、冷蔵庫など厨房機器の手配で苦労し、仕入れ先探しで苦労し(地震で廃業した業者も多かったそうです)、たくさんの苦労を乗り越えて、9月3日には浜風商店街のからすや食堂として再オープン。

すると、震災から半年もたたないうちの仮設商店街オープンとしてマスコミにも大きく取り上げられ、地元の人たちばかりでなく、有名人や全国からの視察の人たちなど、多くの人が訪れました。からすや食堂さんのプレハブの内壁には、芸能人やスポーツ選手などたくさんの人たちのサインが直接書き込まれています。たくさんの人にお店が愛されている証拠です。

しかし、苦労の末にたくさんのお客さんに来てもらえて、めでたしめでたし、とはいきません。震災から日にちがたつにつれて、視察や取材はだんだん少なくなっています。地元のお客さんだけで商店街が賑わうというところまでには、残念ながらまだ行っていないそうです。しかも、ここは仮設店舗なのでいつかは出ていかなければなりません。「今度は建物も全部自分でやらなければ」とご主人は語ります。お店の本格的な再興に向けて、力を蓄えていかなければならないのです。それでもお話ししている間中、笑顔が絶えないのです。さらにこんな言葉まで。

「不謹慎かもしれないけど、経験できないようなことができて、これはこれで楽しいんだ」

夕日を受けながら、ちょっと照れくさそうに語るご主人なのでした。

その後も久之浜に出かけるたびに、からすや食堂さんには立ち寄っています。タンメンも食べました。おすすめのしょうゆラーメンもいただきました。先日食べたかつカレーもおいしかった。まだまだメニューの数パーセントでしかないけれど、仮設店舗があるうちに全メニュー制覇を目指します。本店舗再開後は、元のメニューもぜんぶいただきたいと心に期しています。

からすや食堂福島県いわき市久之浜町久之浜字糠塚15(久之浜第一小学校校庭)

電話 0246-82-2158

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